映画【 箱男 (The Box Man) 】ダンボールが走る!もう一度観たくなる解説&感想

引用:映画『箱男』オフィシャルサイト

当ブログでは皆様の映画選びの一助になる情報と感想をお届けしております。
この記事を読めば、あなたもきっとこの映画を何度も観たくなります
是非最後までお付き合いください。

では、行きましょう!

この記事でわかること

●映画『箱男』のおもしろさ
●映画『箱男』の解説
●映画『箱男』の楽しみ方
●映画『箱男』の惜しい点
●映画『箱男』の推しポイント!

以降、完全なネタバレはしていません
どこがネタバレなのかもよく分からない作品ではあります。

ゴマ

どんな映画なの?

こま

現在日本文学を代表する作家である安部公房の原作を映画化した作品だよ

目次

映画『箱男』の概要

安部公房が1973年に発表した同名の実験的小説の映画化です。安部公房は惜しくも1993年に68歳で亡くなっていますが、当時最もノーベル賞に近いと言われていた現代日本文学を代表する作家です。今年は奇しくも安部公房の生誕100周年。記念すべき年の映画化です。

主人公の“わたし”を永瀬正敏が演じ、ニセ医者役を浅野忠信、軍医役には佐藤浩市、葉子役で白本彩奈が共演しています。監督は『狂い咲きサンダーロード』、『逆噴射家族』などの石井岳龍

上映時間は120分。レイティングはPGー12。

ゴマ

映画『箱男』のざっくりあらすじです

映画『箱男』のあらすじ

大きなダンボールを頭から被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る「箱男」。それは人間が望む最終形態であり、すべてから完全に解き放たれた者。そして完全な孤立、完全な孤独を得て、社会の螺旋から外れた「本物」の存在。
カメラマンの“わたし”は庭にいた箱男に心を奪われ、自らもダンボールを被って箱男として生きることを決意する。しかし箱男を目の敵にするワッペン乞食、その存在を乗っ取ろうとするニセ医者、完全犯罪に利用しようと企む軍医や彼を誘惑する謎の女・葉子などが現れ、“わたし”に試練と危険が襲いかかる。

という感じの筋書きです。

あらすじを読んでも、よく意味が分からないと思います。

ゴマ

映画化を一度断念してるんだってね

こま

そう。27年前に同じ石井監督・永瀬正敏主演で映画化の企画があったんだけど、残念ながら失敗してるんだよ

曰く付きの作品です

27年越しの企画だそうです。当時この原作は世界中の映画人が映画化を希望していましたが、安部公房はなかなかOKを出しませんでした。そんな中で唯一許諾を受けたのが、本作の監督である石井岳龍(当時は石井聰亙)です。

1997年、日本とドイツの合作として、監督・スタッフ・キャストはドイツハンブルクに撮影の為に入っていました。永瀬正敏と佐藤浩市(当時は軍医役)もキャストとして参加していました。

巨大なセットも出来上がっていて、正にこれから撮影をスタートするぞという当日になって、監督が日本側のプロデューサーに呼ばれ、いきなり「この映画は中止にします」と言われたのだそうです。どうも日本側の資金繰りの問題だったらしいです。

石井監督はあまりのショックに、その時の脚本は封印して、立ち直るまでに2年かかったそうです。永瀬はその後に食事が喉を通らなくなって、入院までしたということです。

それでも石井監督は「この作品をやめるということは一回も思ったことがなかった」と語っています。その熱意が幻となった企画を動かそうとします。

ですがその5年後には映像化の権利は、なんとリドリー・スコットの事務所が持っていて、テスト映像まで作られたそうです。しかし映画は完成しませんでした。

2013年に石井監督が関プロデューサーに話を持っていき、2016年に再び原作権の許諾を得ることに成功します。そしてとうとう2024年に公開を迎えました。主演も同じ、当時のスタッフも交えて完成させた情熱に感心します。

一度は撮影当日に企画が無くなり、リドリー・スコットでも作ることができず、企画が再始動してからも公開までに10年以上かかっています。なんとも紆余曲折、苦難の道を経た企画です。

ゴマ

どんな映画なの?

こま

難解な文学をエンタメとして映像化しているよ

映画『箱男』はどんな作品?

ミステリーあり、アクションあり、恋愛ありです。シュールなコメディともとれます。箱が走るだけで面白いです。

石井監督は、安部公房に会った際に「映画にするなら娯楽にしてくれ」と言われたそうです。その言葉通りちゃんとエンタメしてます。

哲学的なテーマを含みます。原作がかなり難解な作品なだけに、本作も少し難しい部分があります。物語の設定もかなりシュールです。
やがて主人公たちは倒錯していき、何が本当か分からなくなります。

やや難解なだけに、筆者は中盤辺りで少しだけ眠くなりましたー。

ゴマ

本作はどんな特徴があるの?

こま

突飛な世界観をもつ変態映画だね。大人の映画だよ

映画『箱男』の特徴

冒頭から昭和(1980〜1990年代)のニオイがプンプンします。2024年の作品とは思えません。映る風俗も当時の感じです。でも観ていると、描かれているのは現代であることが分かってきます。
若い世代にはやや古臭く感じるかも知れませんが、筆者はそこがいいと感じました。

俳優は豪華ですが、それ以外は低予算感があります。物語も特殊性があります。
どう見てもミニシアター向けの作品ですが、ベルリン国際映画祭に出品され、シネコンで1日4回以上も上映されていることに驚きます。

一種の変態映画です。大人の映画です。子供とは観れません。
社会派サスペンスかと思っていましたが、想像より性的な部分が多かったです。ある種の恋愛映画ともいえます。
PG-12は「小学生以下のお子様が視聴する際、保護者の助言・指導が必要。鑑賞する際にはなるべく保護者同伴をオススメする作品」となっていますが、本作を「助言」で子供に観せるのは無理だと思います。

内容は全然違いますが、手塚治虫原作・稲垣吾郎と二階堂ふみ主演の『ばるぼら』(2020年)を連想しました。

突飛な内容なのに、世界観が地続きに感じるところや嘘っぽくないのは凄いです。
誰もが子供の頃にダンボールに入って遊んだ経験はありますよね。或いは家の中で“かくれんぼ”して、押し入れから家族を覗いたりした経験もあるでしょう。
こういう経験が、妙にリアリティがある感じを生んでいるのかも知れません。

ゴマ

本作はどんなことを描こうとしているの?

こま

「見る」ことと「見られる」ことの関係は、「映画」そのもののテーマでもあると思うんだ

映画『箱男』が描くテーマ

箱男はアイデンティティを自ら放棄した男であり、「匿名の存在」の象徴です。閉じ籠もっているのは妄想の箱です。覗き窓から見ることで、視野は狭くなります。
昭和末期は「自分探し」が流行りました。そしてその後は「引きこもり」が大量に発生し、コロナ以降多くの人が「ネットの世界に埋没」するようになりました。
箱男はその存在を消しながら、懸命にノートにメモをして存在証明を残そうとします。ここにも現代性を感じます。
本作は数十年前から現代に通じる普遍的なテーマを扱っていると感じます。

本作はメタ構造になっています。本作では「見る」ことと「見られる」ことの関係が描かれます。こちらが見ているときに、向こうも見ている。
映画の観客はスクリーンを通して、物語を覗き見しています。私は本作のテーマのひとつはここにあるのだと感じました。これは映画の普遍的なテーマです。
覗き穴はスクリーンと同じ形だなと思っていたら、本当に穴の形はシネスコと同じ比率に作られているのだそうです。

原作は昭和48年出版。ネットもパソコンもスマホもSNSも無い時代の作品です。
デジタル端末でいえば、原作が書かれたのはマイコン時代。27年前の企画の時はガラケーが出始めた頃。本作が完成したのはスマホ&SNS全盛期です。
監督もインタビューなどでスマホやSNSについて言及していますので、テーマのひとつであることは間違いないです。

ところが本編にスマホは登場しません。ですが最後に仕掛けがあります。

ゴマ

出演者の演技はどうだったの?

こま

ハリウッド映画にも出たような実力派が揃ってるからね。脂が乗った演技が見られるよ

キャストの素晴らしい演技

キャストの演技は良かったです。流石にベテランを揃えただけのことはあります。

主人公を演じた永瀬正敏は、気合が入っていました。実際に長期間ダンボール箱に入って生活して役作りをしたそうです。完全に箱男になりきってました。「脂が乗った箱男」という感じで良かったです。

ニセ医者役の浅野忠信はとても楽しそうに演じていました。インタビューでも「撮影はとても楽しかった」と語っていました。初日から飛ばし過ぎて監督に「まだ抑えてくれ」と言われたそうです。

紅一点のヒロイン、戸山葉子(本作で唯一ちゃんと名前がある役)を演じた白本彩奈はとても良かったです。200人近い候補者の中から、オーディションで本作のヒロインに抜てきされました。
ドラマ『最後から二番目の恋』にも出演していて、「おはガール」をやっていた時期もあります。ドラマ『GO HOME〜警視庁身元不明人相談室〜』にもゲスト出演していました。
ベラルーシ人の母と日本人の父を持つハーフだそうで、本作ではその容姿を活かして美しい裸体も披露しています。熟年俳優たちを翻弄する役柄を、正に体当たりで演じていました。今後の活躍にも注目です。

ゴマ

不思議な雰囲気の作品みたいだけど、落ち着いた映画なの?

こま

いや、結構アクションもがんばってるよ。箱男同士の決闘シーンはシュールに笑えて楽しいよ

意外なエンタメ性

アクションも想像よりガッツリやってました。

「早々に箱を脱いで戦ったらつまらないなぁ」と思っていたら、とんでもありませんでした。しっかり箱男のままアクションしてました。5〜6人のスタントマンがアクションに当たったそうです。意外に本格的。

箱男対ニセ箱男のシーンは、どちらがどちらか分からなくって面白いです。
箱を被ってよくあのスピードで走れるなと感心しました。あの素早い動き。キュートです。ふなっしーを連想してしまいました。
フィギアとかプラモとかあれば売れるんじゃないでしょうか。アイコン化も可能だと思います。

因みに、27年前は本作よりもっとエンタメ要素が強かったそうです。

ゴマ

残念なポイントはある?

こま

熟年俳優ばかりの映画になったことと、良くも悪くもテーマに関わる言葉を最後に言っちゃうところかな

映画『箱男』の惜しかった点

男優陣は初老俳優ばかりです。穴から顔や目元ばかり映る作品ですが、シワや皮膚のたるみが見えてやや老けているのを感じます。カッコいい若作りのイケメンばかりですが、流石にもう少し若ければなとも思いました。
27年前は役と演者の年が相応だったのだと思います。特にヒロインが若いのでアンバランスさを感じます。
エロなシーンは、もっともっと変態性を演出しても良かったと思います。やや大人しめなのは、演者の年齢が関係してるのかなとも思いました。

ですがこれはこれで味があって面白いとも感じます。熟年になった今でしか出ない味があります。
ハリウッド作品にも出た俳優たちが、箱男を懸命に演じている様は面白いとしか言いようがありません。

箱男は何者なのかが、最後の台詞で明かされます。抽象的なままで終わることも出来たはずですが、最後に突きつけてきます。ここは監督がこだわったポイントだそうです。
この台詞によって凄く分かりやすくはなっているのですが、分かりやす過ぎるかなとも思いました。
何でも分かりやすくしなければならない現代に寄せた結果かも知れません。恐らく27年前の脚本にはこの台詞は無かったと思います。

ゴマ

27年越しで完成した映画なら、さぞ監督も思い入れがあるだろうね

こま

石井監督は本作を「マジカル・ミステリー・ツアー」と形容しているよ

監督が語る本作の楽しみ方

ジャパンプレミアで石井監督は、
「ダンボールと覗き窓で彼が僕らより優位に立つ」
「情報化社会が進んで全員がスマホを持っていて、コロナ以降閉じこもるようになった」
「一人一人が見えない箱に入っている現代を予見し、(原作は)今の時代を先取りしたような作品」
本作は体験する映画。素晴らしい俳優の演技に身を任せて、箱男の闇に誘う冒険を楽しんでほしい」
というようなことを語っていました。

ベルリンの上映前の壇上では
「マジカル・ミステリー・ツアーを堪能してほしい」
という言い方で本作を表していました。

監督の中には続編構想もあるらしいです。本作がヒットしたら、あり得るかも知れません。観てみたいですね。

ゴマ

映画『箱男』の推しポイントまとめです!

映画『箱男』のおすすめポイントまとめ

原作はアンチ小説を掲げて、51年前に発表された実験的な作品です。読んだ人の数だけ解釈があるような難解で奇妙な内容。本作はその安部公房が描いた世界を、27年掛けて再現した力作でした。

現代を見据えたような原作の映画化であり、時代を超えた作品になっています。今作られ、公開される意味はあります。

観念的且つ哲学的なテーマを内包していて、この映画の観方にも正解はないでしょう。つい読み取りたくなりますが、それよりこの世界観に浸り、いかに感じて味わって愉しむかが重要だと思います。筆者はとても楽しみました。

内省的なストーリーなので暗くなりがちなのですが、意外にもミステリー・アクション・恋愛・エロ・コメディとエンタメ要素が全部盛りです(といってもインド映画のあれとは違います)。

そしてその奇妙な世界観の中で、一流の熟年俳優たちが一生懸命演じています。そのこと自体がシュールで笑えます。

色々な要素が詰め込まれていますが、決して万人向きではないと思います。退屈に感じる人がいてもおかしくありません。ですが、今年を代表するクレイジーな一本であることは間違いありません。

映画としても普遍的なテーマを扱っており、映画館で観る、または映画館に似た環境で観てこそ感じることができる一本に仕上がっています。一見の価値ありです!

いかがだったでしょうか。
ぜひもう一度この映画を観ましょう!
そこにはきっと気付かなかった感覚や楽しさ、新しい発見があると思います。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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