映画【シビル・ウォー アメリカ最後の日】今観るべき作品!もう一度観たくなる解説&感想

シビル・ウォー アメリカ最後の日 : ポスター画像 – 映画.com

当ブログでは皆様の映画選びの一助になる情報と感想をお届けしております。
この記事を読めば、あなたもきっとこの映画を何度も観たくなります
是非最後までお付き合いください。

では、行きましょう!

この記事でわかること

●映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の概要
●映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のおもしろさ
●映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の特徴と解説
●映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の楽しみ方
●映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の推しポイント!
●映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の惜しい点
●映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のこぼれ話

結論!

<おススメ度>
★★★★ 4.5

ファーストインプレッション
今年一番の衝撃でした。
● 観終わってドッと疲れが出て、放心状態になりました。しばらく胸のドキドキが止まりませんでした。

ポジティブ感想
● アメリカだけではなく世界の分断が進む今、まさに体験し、考えるべき映画だと感じました。
 ● 本作はジャーナリストの目を通して、内戦で起こる現象だけを描き、観客に体感させることに振り切っています。
● 敢えて政治的な主張はせず説明を極力省くことにより、想像力を掻き立てる作りになっています。観客が想像してはじめてこの映画は完成します。
● 主張しない政治映画ですが、強いメッセージ性を感じます。
● ジャーナリストを主人公に置き、報道に何ができるかを描こうとしています。
音響と音楽に強いこだわりを感じます。音響の良い環境で観ることをお勧めします。
● 一点集中でお金がかかっているクライマックスは、かなりアガります。
赤いサングラスの男のシークエンスはトラウマ級の緊張感と恐ろしさがありました。

ネガティブ感想
● ロードムービーとして描くことで、ゲームっぽさが出てしまっています。
人間ドラマがメインになっており、物語も後半まで派手さがないので、やや物足りなさを感じる人がいるかも知れません。

感想については、あくまで個人的な見解、考察ですのでご容赦ください。
一部ネタバレを含む表現がありますので、ご注意ください。

ゴマ

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』はどんな映画なの?

こま

戦場カメラマンが体験する内戦を描いた近未来アクションスリラーだよ

目次

映画【シビル・ウォー アメリカ最後の日】の概要

分断が進み、内戦が勃発した近未来のアメリカを描きだすアクションスリラーです。
A24が史上最高の製作費を投じて製作を務めました。

『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランドが監督・脚本を手がけています。
出演は、キルステン・ダンストワグネル・モウラスティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンケイリー・スピーニーが4人のジャーナリストを演じます。

上映時間は109分。レイティングはPG12です。

「Civil War」とは内戦のことです。アメリカで「Civil War」といえば、南北戦争(American Civil War)を指します。南北戦争は1861年4月12日から1865年4月9日にかけて、北部のアメリカ合衆国と南部のアメリカ連合国の間で行われた内戦です。
本作はアメリカで、南北戦争が始まった日と同じ4月12日に劇場公開されました。

映画【シビル・ウォー アメリカ最後の日】の評価

ロッテントマト
 トマトメーター 81%
 ポップコーンメーター 70%

Filmarks 4.0p
映画.com 3.6p

わかりやすい娯楽映画ではありませんが、高めの評価となっています。

映画【シビル・ウォー アメリカ最後の日】の興行収入

製作費5000万ドルに対して、世界興行収入は1億ドルを超え、2週連続全米1位を獲得しています。

北米から約半年遅れでの公開となった日本では、初日からの3日間で動員12万7538人、興収1億9968万3080円(先行上映を含む)を記録し、週末動員ランキングで初登場1位に立ちました。
インディペンデント系の作品が日本で1位となったのは、『パラサイト 半地下の家族』以来です。

公開規模は全国348館(437スクリーン)で、IMAXやDolby Cinemaなどラージフォーマットの入りが良いようです。

ゴマ

本作のざっくりあらすじです

あらすじ

連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる“西部勢力”と“政府軍”の間で内戦が勃発していた。就任3期目に入った大統領はテレビ演説で「我々の勝利は近い」と力強く訴えるが、各地で激しい武力衝突が繰り広げられている中、政府軍は敗色濃厚の状態になっており、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していたカメラマンと記者の4人は、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスを目指して旅に出る。戦場と化した道を進むなかで、彼らは内戦の恐怖と狂気に晒されていくのだが。

といった感じの筋書きです。

ゴマ

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』にはどんな特徴があるの?

こま

疑似家族ロードムービーの形をとっていて、人間ドラマが中心になっているよ

解説と特徴

アレックス・ガーランド監督はイギリス人です。元小説家で、後に映画の脚本を手がけるようになり、『エクス・マキナ』で監督デビューします。
父親は風刺漫画家、母親は心理学者、祖父は海外特派員でした。生まれながらにジャーナリズム精神が宿っているのかも知れません。
本作には一歩引いたようなドライな視点がありますが、それはイギリス人が監督したアメリカの話というのが大きいと感じます。

本作は疑似家族ロードムービーとなっているのも特徴です。
戦場と化した土地を通り抜け、ワシントンに向かう彼らは、さながら地獄めぐりをする旅人です。『地獄の目次録』(1979年)を連想する人も多いようです。
戦争映画というよりホラースリラーに近いかも知れません。流石A24という感じの作品です。

4人のジャーナリスト達は、旅をする中で何のための戦いなのかがわからなくなってきます。観客も何が正しいのか、何が悪いのかもわからないまま物語は進んでいきます。

本作は政治的な外面を持つ映画ですが、実は人間ドラマがメインです。旅をする過程での人間模様や個人的な心の動きが繊細に描かれます。
ロードムービーという手法で、今何が起こっているのかを客観的に描写し、それらの出来事に遭遇した新人カメラマンが次第に成長していく物語にもなっています。

ガソリンスタンドでの会話。リーがガソリンスタンドの店主とガソリン代金の交渉をします。店主はカナダドルでの支払いでようやくOKします。ここでアメリカドルの相場が下落していることがわかります。
貨幣価値の下落によって、日常が崩れている姿が描かれます。基軸通貨であるアメリカドルの低下は、世界に多大な影響を及ぼしていることが想像出来ます。さり気ない台詞でアメリカだけの話になっていません。

本作にはファシスト化した大統領が登場します。憲法に反して「3期目」に突入し、大統領を監視する役割を持つ「FBIを解体」、「自国民に空爆」を仕掛けた大統領です。この状況に反発した西部勢力が反旗を翻したという構図ですが、忘れてはならないのが「この大統領は国民が選んでいる」ということです。
近未来を描いたSFですが、現実の世界ではアメリカ大統領選挙が行われます。今こそ観る価値がある映画です。

分断から分極へ

本作はアメリカで進んでいる「分断」が前提になっています。分断から分極への流れが進み、集団分極化や感情的分極化が生じていると指摘されています。

この映画は敢えて説明を少なくしているので、何となくでも今のアメリカがどういう状況なのかを知っていないと映画の中で何が起こっているのか意味がわからないと思います。
といっても、詳しい知識が必要な訳ではありません。「保守 対 リベラル」、「共和党 対 民主党」、「白人 対 非白人」などの対立があることを知っているだけで、この映画の体感度は上がります。

この映画は出来るだけ説明を削ぎ落とし、リアリティはあるけれど、具体性は少なく表現してあります。

本作の面白い点は、政治思想が特に描かれていない点です。明らかに何か政治的なことを訴える映画ではあるのですが、直接的な主張はありません。直接言わない政治映画です。
単純なプロパガンダになっておらず、どんな主義主張を持った人にも観られるように作られています。
戦場カメラマンを主人公に置き、偏りがない視点で描くことによって分断を助長しない設定になっています。

人道主義であることは間違いありません。あとは状況設定だけ提示して、観客が受けとめ、観客に考えさせる作品となっています。観ただけでは意味がありません。観た後で調べたり、考えたりすることが大事なのです。この作品はそういうことを訴えかけています。

監督は抽象的に描いていることについて、「本作をSF的な寓話として描いている」と語っています。

そのことは劇中でカリフォルニア州とテキサス州が同盟しているという設定からもわかります。
政党支持傾向を示す概念でもカリフォルニア州は民主党を支持する傾向がある青い州(blue state)、テキサス州は共和党を支持する傾向がある赤い州(red state)に分類されています。

アメリカ大統領選挙においては、カリフォルニア州は1992年のクリントン以降全て民主党候補者が勝っています。逆にテキサス州は共和党候補者が勝っています。
南北戦争においてもカリフォルニアは北部(アメリカ合衆国)自由諸州に属し、テキサスは南部(アメリカ連合国)奴隷諸州に属していました。

この水と油ともいえる2つの州が合同するなどということは、ほとんどの人があり得ないと答えると思います。ここに本作の設定の妙があります。
どちらの党派にも肩入れしない姿勢が明確に示されているのです。

カリフォルニア州は、アメリカ合衆国で最大の人口を誇り3番目に大きな面積を持っています。経済的には観光産業、農業、航空宇宙産業、石油産業、情報技術産業が中心で、世界トップクラスのIT企業が多数集積している。アメリカ合衆国のGDPの13 %を占め、世界の国と比較してもGDPではイタリアに匹敵する第10位となっています。

一方テキサス州は、アメリカ合衆国で2番目に人口が多く、面積も2位です。多くのハイテク企業を含む多様な経済が発展していて、農業、石油化学、エネルギー、コンピュータと電子工学、宇宙工学およびバイオテクノロジーの分野が中心となっています。州総生産はカリフォルニア州に次いで国内2位です。

たった2州とはいえ、この近代的で巨大な州がもし同盟を組んだら、合衆国の脅威となることは十分に考えられます。
テキサス州は近年ではカリフォルニア州などからの移住者が多くなり、スイング・ステート(激戦州)になってきており、将来にわたって決してあり得ないとは言えません。

ゴマ

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のテーマは?

こま

ジャーナリストを主人公に置き、報道は何が出来るのかを描こうとしているよ

映画【シビル・ウォー アメリカ最後の日】のテーマ

ジャーナリストを主人公に置き、報道が持つ力が描かれています。
中立であるジャーナリズムの視点から描くことで、どの角度からでも見られるように出来ています。

本作は内戦の末期から物語が始まります。主人公たちは、報道の力が通じなかった結果戦争になっていると語ります。ジャーナリズムの敗北感から物語がスタートしているのです。
それでも彼らは命懸けで、ワシントンDCに向かいます。戦争の最後に報道に何ができるのかを描いています。

内戦なのでアメリカのカメラマンも当事者です。外国へいくのとは意味が違います。
ジャーナリストがどの立場で行動するべきなのかということは、ジャーナリズムの重要さに繋がりますが、本作では内戦という設定によって、戦場カメラマンの立ち位置がはっきりしないようにしてあります。
カメラマンを追うことによって、観客は思想に偏りのない一般人視点で観られるようになっています。

さらに対照的な主人公を2人置き、その1人である新人カメラマンが感じる恐怖を観客は体感できるようになっています。

リーはWikipediaにも載っているような実績がある有名なカメラマンですが、戦場での辛い現場を見続けた結果トラウマを抱え、恐らくPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症しています。本作は戦場に心を蝕まれてきたリーが、人間性を取り戻そうとする過程を描いています。スナイパー同士の睨み合いのシークエンスでは、リーは身を屈めながら敵ではなく近くの花を見つめます。こんなシーンでも彼女が人間性を取り戻そうとしているのがわかります。物語の最後、リーはわざと撃たれにいったようにも見えました。それは人間性を取り戻すためだったのかも知れません。

一方新人カメラマンであるジェシーは旅の過程で、成長し、次第に覚醒していきます。
戦争は人々の心を狂わせていきます。ジェシーはクライマックスでは成長を通り越して狂っていくように見えます。自分の興奮に任せて前のめりになり、まるで楽しんでいるかのようにシャッターを切り続けます。前半では人道的な反応をしていたジェシーでしたが、最後には撃たれたリーを助けようともせず、写真を撮り続けます。リーを踏み越えていく瞬間であり、リーの領域に足を踏み込む瞬間でもあります。この旅によって彼女は戦場カメラマンとして成長しますが、同時に精神が蝕まれていたのがわかります。彼女はやがてリーのように苦しむことになるのかも知れません。

本作では写真を撮ることを「Shoot」で統一しています。銃を撃つのも「Shoot」です。
カメラはカメラマンにとって、兵士の銃と同じなのです。彼らは丸腰で戦場へ行きます。向けるのはレンズか銃口か。言葉は同じでも、意味は大きく違います。

『映像の世紀』というドキュメンタリーシリーズがありますが、あの作品を観ていても記録の重要さをとても感じます。
リーは「私達は人々に問いかけるために記録する」と語ります。

同時に本作を「カメラ = 映画」は何ができるのかを描こうとしている、という視点でも捉えることが出来ます。
本作の構造は、ただ出てくる人たちや出会った出来事をただ記録していく映画ともいえます。カメラマンが出来事の善悪を言わずに記録し続けるように、本作もそれらのことを良いとも悪いとも言わずに映し出します。
監督のドライな視点を感じます。

ゴマ

俳優の演技はどうだったの?

こま

ジャーナリスト役の4人は素晴らしい演技だったよ。特に主演女優2人はキャラクターから俳優のキャリアを連想したよ

キャストと演技

キルステン・ダンストは素晴らしい演技でした。険しい顔立ちが戦場カメラマンにピッタリでした。

夫はあの赤いサングラスの男を演じたジェシー・プレモンスです。本作で夫婦共演を果たしています。とても印象に残る演技でした。

『エイリアン ロムルス』でも話題になっていたケイリー・スピーニー。実際の年齢より若く見えます。新人役がピッタリでした。彼女の幼く見える容姿によって、観客も恐怖の体感度が増したと思います。

『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年)で注目され、サム・ライミ版『スパイダーマン』三部作(2002・2004・2007年)や『マリー・アントワネット』(2006年)でスターになったキルステン・ダンスト。

『プリシラ』(2023年)、『エイリアン:ロムルス』(2024年)、そして本作で今まさにスターダムにのし上がろうとしているケイリー・スピーニー。

今回の役は、この2人の女優同士の現在の立ち位置とキャリアを連想させます。

ゴマ

この映画を観て、どこが良かったの?

こま

観終わってからもいろいろと考えさせる作品になっているね

ポジティブ感想

優れた作品だと感じました。演出、構成が上手く、とても見ごたえがありました。
アメリカ大統領選挙が近い今、観るべき映画だと感じます。

設定が非常に上手いです。アメリカは元々1つではないということを考えれば、本作が荒唐無稽だとか、あり得ない話だと言い切れないギリギリのラインを狙っていることがわかります。

本作は世界最大の国での出来事として描いていますが、他国にも当てはまることです。ロシアだっていつこんなことが起こってもおかしくありません。そういう意味では普遍的な内容だと思います。

州ごとの対応の違いによって、主人公たちがわざわざ回り道をしていかなければならないという設定も、とても現実的だと感じました。

クーデターではなく、反乱だという点もポイントです。クーデターだと話のスケールが小さくなってしまいますが、反乱だと国家に対して国民が内戦を起こしたという大きなスケールの物語として描くことができます。

若者に人気があるA24が、このような映画を作ったのが面白いです。
スリラー、アクション、ポリティカルフィクション、ディストピアスリラー、スペキュレイティブフィクション、近未来SFと、いろいろな楽しみ方が出来ます

緊張感満点のシーンと事情的な景色、夕日、山火事などの美しい自然とが交互に映され、緩急のある構成となっています。
自然の美しさの中にある人間の異常さと、内在する暴力性が際立つ演出となっています。

観客は新人カメラマンであるジェシーの目線で物語を観ることになります。次第に戦時下の極限状態へ連れて行かれ、死の危険が迫ってくるのを追体験出来る仕掛けになっています。ずっと胃がキリキリ痛む感じです。

政治的な側面もありますが、決して難しい映画ではありません。むしろ恐ろしい映画です。
政治的な偏った主張をせず、中立の立場で極限の恐怖を描きます。
イギリス人監督ならではのドライで入り込みすぎない視点も良かったと思います。

極限状態には人は自分の正義だけで判断・行動し、結局どちらが正しいかは問題ではないという感覚もよく理解できました。

音響に拘りを感じました。
銃声が大きく、音が怖いです。銃声音で俳優が本当に驚いているのが画面を通してわかります。
実は撮影用の少ない火薬ではなく、実際の実弾用と同じ火薬の量で撮影しています。それを俳優たちには知らせないで撮影したので、彼らは本当に恐怖を感じているのです。

優れたれた音響デザインの映画では、今年は『関心領域』(2023年)がありました。本作もアカデミー賞の音響部門にノミネートされるかも知れません。

音楽の使い方や選曲が秀逸でした。
残虐なシーンにサイケで明るいポップミュージックがかかります。観客はどう感じたらいいのかわからなくなり、不安定になります。曲は弾けているのに、嫌な感触が残ります。

スピーニーは「監督の撮影方法がすごく賢くて画期的だった。カメラが見えないから、よりリアルに感じて没入することができた。すごい内容だし、すごい経験だった」とも語っています。

恐怖の演出がとても上手いです。
特に赤いサングラスの男が「What kind of American are you?」(お前はどの種類のアメリカ人だ?)と問うシークエンスは強烈でした。得体のしれないレイシスト。どこの誰かわからない。何を考えているかもわからない。全く話が通じない相手にどう対処すればいいのか。銃口は向けなくても、ずっと引き金から指を外さない。答え方を間違えれば、即時射殺が待っている緊迫の極限状態。
ゆったりとしたジェシー・プレモンスの演技は素晴らしかったです。このシークエンスだけは完全に恐怖映画でした。

この物語は戦場カメラマンが主人公というのがポイントになっています。
劇中彼女たちが撮った写真が随時画面に差し込まれます。何を撮ったのかがわかるのは、フレッシュな表現でした。
カラーとモノクロ写真を分けることで、どちらが撮った写真なのかが、視覚的に分かるようになっているところも上手い設定だと思いました。

主人公たちは燃費が悪そうな車で旅をします。いつ止まるのかヒヤヒヤしました。
前半でガソリンスタンドのシークエンスを入れたのは、上手いと思いました。

内戦を見て見ぬふりをする州があるという設定も面白いです。確かにアメリカだったら各州の自治権が大きいので、現実的な設定だと思います。
服を買う場面は、緊迫する本作の中でも数少ないホット一息出来るシークエンスです。しかしあの街も監視下に置かれていることがわかります。何だか異次元の街のようで、トワイライトゾーン感がありました。とても面白い演出でした。

クライマックスは一点集中でお金がかかっています。
一気にスペクタクル感が増して、観客のボルテージが上がり、アドレナリンが出ます。
戦闘シーンのディテールがかなりしっかり描かれているのも良い点だと思います。

終わり方も良かったです。全てを語りきらず、オープンエンディングで終わります。
エンドロールに現像されるように少しづつ浮き上がる、ジェシーが撮ったであろうモノクロ写真の異様さが印象に残りました。とても苦い後味でした。

ゴマ

残念なポイントもあったの?

こま

ゲームっぽさがあるのは、この映画のテーマにはそぐわないと思うな

ネガティブ感想

クライマックスこそ外連味一杯に画面が盛り上がりますが、決して派手なアクション大作ではなく、地味ささえ感じる作品です。トレーラーに出てくるような派手なシーンばかりを期待すると、思っていたのとは違うという感想になるかも知れません。

政治的な主義主張がはっきりせず、比較的人間ドラマがメインになっているところは、期待しているものと違ったり、やや物足りなさを感じる人もいるかも知れません。特に前半は静かに物語が進行します。

レイシストが出てきますが、香港人が問答無用に射殺されるのは、アジア人としてショッキングでした。

本作はゲーム的な作劇になっています。ロードムービーということもあり、旅をしながらミッションをこなしていくようなゲームっぽさがあります。『1917 命をかけた伝令』(1919年)を連想しました。
リアリスティックな描き方の中に、ゲームっぽさがあるのはテーマに対して微妙だと感じました。

ラストの写真の醜悪さが印象に残ります。そこには監督の冷たい視線があります。
暴力が勝ち、戒めの感覚で終わります。勝利のカタルシスはありません。救いがない終わり方です。本作は重要作ですが、観る人によって好き嫌いは出ると思います。

本作ではジャーナリストは中立で、私情を入れず淡々と記録するのが仕事と語られますが、それはフィクションです。
記事には記者の考え方や主張、写真にはカメラマンの視点やテーマが反映されます。報道写真にも主義主張は出ます。どの立場で何を切り取るかで、写真の意味(見方)が変わります。

画像の強みも理解しますが、なぜ映像で残さないのかは不思議に思いました。特に最後のインタビューは、現代においては映像の方が強いと思います。

終盤のジェシーは迷惑系YouTuberのようにも見えました。ジャーナリズムと他のメディアの境界線を曖昧に描いているようにも感じました。

ゴマ

他にも面白い話はある?

こま

赤いサングラスの男がジェシーに行う質問は、プレモンスのアドリブだったそうだよ

こぼれ話

赤サングラスで「What kind of American are you?」が強烈だったジェシー・プレモンス。
実はこの役は最初別の俳優が演じることに決まっていたのですが、その人の出演が取りやめになったそうです。その際にキルステン・ダンストが、たまたま撮影現場に来ていた夫のジェシー・プレモンスを推薦したのだそうです。そういう経緯もあって、彼はノンクレジットで出演しており、役名もありません

「華がないマット・デイモン」(そっくりであることはデイモン公認)なんて言われていますが、この短いシークエンスはとんでもなく印象に残りました。トレーラーにも使用され、本作の象徴的なシーンになりました。

この撮影にはかなりプレモンスの即興が多かったらしく、ミズーリ州いじりを入れて「(ミズーリ出身だという)証拠を示せ」という行は、プレモンスのアドリブだったそうです。つまりスピーニーはリアルに戸惑っているという反応なのです。因みに、スピーニーは回答の通りミズーリの出身です。

赤いサングラスの男はミズーリ州のことを「Show Me Stateの州だね」(証拠を示せの州)と言います。この「Show Me State」はミズーリの愛称で、簡単には信じない、疑い深い州民の特性を表しています。
日本でいうと、沖縄人のことを「なんくるないさーの島の人だね」とか、京都人のことを「会話が回りくどい地域の人だよね」というような感じでしょうか。

本作は2020年に脚本が出来ていましたが、コロナの影響で撮影が遅れたそうです。
結果、大統領選挙の年に公開されることになりました。特に日本では大統領選挙直前での公開となり注目度が上がりました。

劇中では語られませんが、監督はインタビューでこの映画は「トランプに投票しないでねという意味だよ」と語っています。

主人公リーのモデルとなったのは、アメリカの報道写真家、ファッション写真家、モデルのリー・ミラーです。20世紀を代表する女流写真家のひとりと称されます。
彼女はファッション雑誌ヴォーグでファッション写真やポートレートで活躍した後、1942年にアメリカ軍の最初の5人の女性従軍カメラマンに選ばれ、イギリスやドイツで戦争写真や収容所の写真を撮影します。特にノルマンディー上陸作戦強制収容所でナチスの戦争犯罪の跡をとらえた写真は歴史的な意義を持つとされます。ですが、この戦争体験は彼女に深いダメージを与え、長い間深刻な鬱病に悩まされました。
リー・ミラーは70歳でガンで亡くなりますが、本作のリーは撃たれて死にます。

ガーランド監督はジェシーは自身の投影だと語っています。ジェシーがフィルムカメラを使っているのは、監督が好きな戦場カメラマンたちが使っているからだそうです。
ジェシーが使っている父から譲り受けたカメラは、「Nikon FE2」です。最高速度1/4000秒という高速シャッターが搭載された機種です。こういうところで日本の製品が登場するとちょっと嬉しくなります。

最後は白兵戦だったのも現実的でした。自国民に空爆している大統領ですが、大量破壊兵器や核を使用しないのは正しい判断です。

ゴマ

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のおすすめポイントまとめです

映画【シビル・ウォー アメリカ最後の日】の推しポイントまとめ

本作はジャーナリストの目を通して、内戦で起こる現象だけをリアリスティックに映し出し、観客に体感させ、問いかけてくる映画です。

政治状況には深掘りしていないにもかかわらず、強いメッセージ性が深く刻み込まれており、想像力を掻き立てる作りになっています。

ガーランド監督は、「ただ目撃するのではなく、想像の中で体験してほしい」と語っています。観客が想像してはじめてこの映画は完成するのです。

「未来を予測した」というような簡単な映画ではありません。まさに今体験し、考えるべき映画です。

一方ロードムービーという形式によって、ゲームっぽさが出てしまったのは、テーマに対して微妙だと感じました。人間ドラマがメインになっており、物語も後半まで派手さがないので、やや物足りなさを感じる人がいるかも知れません。

いかがだったでしょうか。
ぜひもう一度この映画を観ましょう!
そこにはきっと気付かなかった感覚や楽しさ、新しい発見があると思いますよ。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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