当ブログでは皆様の映画選びの一助になる情報と感想をお届けしております。
この記事を読めば、あなたもきっとこの映画を何度も観たくなります。
是非最後までお付き合いください。
では、行きましょう!
●映画『ラストマイル』の概要
●映画『ラストマイル』のおもしろさ
●映画『ラストマイル』の解説
●映画『ラストマイル』の楽しみ方
●映画『ラストマイル』の推しポイント!
●映画『ラストマイル』の残念なポイント
●映画『ラストマイル』の脚本が歪な理由(考察)
さすがの話題作。他の映画を侵食するほどの上映回数です。
本作はテレビドラマとのコラボ作品だと聞いていたので、筆者はあまり観る気はなかったんですが、評判が抜群に良くて“傑作”だとの評価もあったので観に行くことにしました。
「MIU404」は観てました。満島ひかりも好きです。なので期待はありました。
『ラストマイル』を観た感想は?
ごめんなさい。今年一番退屈でしたー
<おススメ度>
展開が平坦で、脚本や内容のスケールがテレビドラマを超えていません。
今年一番退屈な映画でした。実際、中盤で一瞬寝てしまいました。
豪華な出演者なのに非常に残念な内容です。
脚本が歪で不自然な点が多いです。
以下その理由を書いていきますが、後半はやや酷評気味になります。
あくまで個人的な見解、考察ですのでご容赦ください。
それでもOKという方は、ぜひ読み進めてください。
全部読んでられないなという方は「推しポイントまとめ」↓まで飛んでください。
この映画のことを教えて
テレビドラマのヒットメーカーがタッグを組んだ作品で、出演者が豪華なんだ
映画『ラストマイル』の概要
ブラックフライデー前夜を発端とする連続爆破事件に立ち向かう、ショッピングサイトの巨大倉庫(LC)のセンター長やそれを取り巻く人々を描くサスペンス映画です。
「MIU404」と「アンナチュラル」の両テレビドラマのプロデューサー・新井順子、監督・塚原あゆ子、脚本家・野木亜紀子というヒットメーカーが再びタッグを組み、両シリーズと同じ世界線で起きた連続爆破事件の行方を描きます。
上映時間は129分 。レイティングはGです。
出演は、満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、大倉孝二、酒向芳、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己、火野正平、阿部サダヲ が出演する他に、「アンナチュラル」チームから石原さとみ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、松重豊薬師丸ひろ子。「MIU404」チームから綾野剛、星野源、麻生久美子などが出演。主題歌は米津玄師。
なんとも凄い布陣です。
評判はいいの?
評価が高くて、ヒットしているよ
映画『ラストマイル』の興行収入
本作は大ヒットしています。公開3日間で観客動員は66万人超え、興行収入は9億7,800万円をあげて断トツの首位。2週目もその勢いは衰えず速報ベースで20億円を突破。最終興行収入は50〜60億円を超える見込みです。
テレビドラマ版からのファンの期待の大きさが分かります。
映画『ラストマイル』の評価
Filmarks 4.2p
映画COM 3.9p
評価はかなり高く、「面白かった」という声が多いです。
どんなお話なの?
物流業界を巻き込むサスペンスだよ
映画『ラストマイル』のあらすじ
流通業界最大のイベントであるブラックフライデー前夜に、世界規模のショッピングサイトのデイリーファスト関東センターから配送された段ボール箱が爆発する事件が起きる。やがて事件は日本中を震撼させる連続爆破事件へと発展する。関東の4分の3を担う巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナは、チームマネージャーの梨本孔と共に事態の収拾に奔走する。延々と続くベルトコンベアと荷物。現代社会の生命線ともなった物流の流れを止めずに、次なる爆破を防ぐことができるのか。日本中を恐怖に陥れる4日間が始まる。
といったような筋書きです。
本作のタイトルにある「ラストマイル」(=ラストワンマイル)とは、物流サービスにおいて最終拠点からエンドユーザー(顧客)へ荷物を届ける最後の区間を意味します。
家まで荷物を持ってきてくれる宅配業者さんの仕事ことです。本作でイメージされるのは、アマゾンに対するクロネコヤマトですね。
この映画の見どころや特徴は?
テレビドラマとコラボしているところや物流のブラック企業をテーマとしているところだね
映画『ラストマイル』の見どころ
本作の一番のウリは、TBS系テレビドラマ「アンナチュラル」(2018年)及び「MIU404」(2020年)と世界観を共有するシェアード・ユニバース作品となっている点です。
因みに、この“アベンジャーズ”構想は、「MIU404」の時からすでに計画があったそうです。
映画『ラストマイル』の特徴
社会問題を絡めたお仕事系サスペンスになっています。”物流の2024年問題”が騒がれる年にタイムリーな内容です。
資本主義における物流業界の階層化や搾取構造をテーマにしており、巨悪よりそれを生むシステムの問題を重点に、豪華なキャストによるエンタメ群像劇として描いています。
映画『ラストマイル』の主要テーマ
本作は日本の物流とそれを取り巻く労働環境がテーマとなっています。
夜の光がベルトコンベアに変わるオープニングとエンディングが、そのテーマ性を象徴しており、巨大倉庫のベルトコンベアが、社会の自動化の流れを表していました。オープニングで主人公が乗る通勤電車はさながらベルトコンベアのようにさえ感じます。
そして「What do you want?」(あなたは何を求めますか)の言葉で、その状況を招いている責任の一端は消費者(=観客)にもあるということを突きつけてきます。
2024年問題・ラストワンマイル問題について
2024年4月から適用される働き方改革関連法による労働時間の上限規制(建設、運輸、医療に対して例外的に認められていた時間外労働の上限規制の猶予が終了する)がもたらす問題をいいます。
特に物流業界では、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることにより、輸送能力が不足することが懸念されています。
この輸送問題は、主に運送会社と消費者にしわ寄せが来る問題です。労働者としては労働環境が改善する反面、収入減の可能性があります。
医療関係もこの問題の対象なのだから「アンナチュラル」チームも絡めた表現があっても良かったのではと思います(なんなら警察も)。残業に関する発言が一言あったと記憶していますが、もう少し踏み込んでも良かったと思います。
演者はどうだった?
主演の2人のあっさりした個性が上手く活かされていたね
キャストについて
満島ひかりと岡田将生はさっぱりあっさりな味を持つ俳優です。彼らを主軸に据えることによって、物語が重くなり過ぎないバランスとなっていました。各キャラクターがPOPで見やすい作品となっています。
最近番宣テレビでよく見かける満島ひかり。素が素敵で、好感を思っていました。主人公舟渡エレナは比較的嫌な感じのキャラクターですが、満島ひかりがやっているので気になりません。因みに、エレナのキャラクターは満島ひかりの当て書きだそうです。
岡田将生演じる梨本孔は、観客の視点であり、傍観者です。傍観者役を演じさせたら岡田くんはピカイチです。
「欲しい物は何もない」という孔と、「隅から隅まで全部欲しい」というエレナとは対照的に描かれていました。
配達員の佐野亘・佐野昭親子を演じた火野正平、宇野祥平の親子役の演技は、とても味があって良かったです。
以下、ネタバレを含んだ記述となります。ご注意下さい。
観て良かったのはどんなところ?
モデルとなった企業を批判の対象としているのはなかなか頑張っていると感じたよ
良かったポイント
物流倉庫、運送会社、委託ドライバー、消費者と、視野を広く取り、物流にかかわる様々な人々にフォーカスしている点が良かったです。
本作に登場するデイリーファスト社はアマゾンをモデルにしていると思われます。
映画作品の多くは、アマゾンでDVDやサントラCDを売り、アマプラで配信します。そのアマゾンを(モデルとはいえ)、エンタメ作品で批判するのはチャレンジングな試みで、その心意気は買いたいと思います。
批判性だけでなく、メディカル分野の配送など利便性も認めているのは良かったと思います。
問題は続いており、解決仕切らない雰囲気、完全なハッピーエンドではない余韻を残すバランスの終わり方も良かったと思います。我々消費者(観客)・社会の方が変わってはいないと問題提起し、観客に考えさせるエンディングでした。
なんと言ってもキャストが豪華です。完成披露会の舞台に並んだキャスト陣を眺めるだけでワクワクします。このキャストを呼べる座組の強さを感じます。完成披露会でのわちゃわちゃとした楽しそうな雰囲気も良かったです。
本作にはドラマの枠を超えた“アベンジャーズ”たち(俳優)が出るのですが、決して本筋に絡むことはありません。映画は映画のストーリーとしてしっかり独立しています。クロスオーバーは控えめに、一本の映画として楽しめます。その意味では、露出量はこれくらいで良かったと思います。ドラマの各回の事件を起こした登場人物も出るのは、ファンには堪らないと思います。
黒と赤のカラーが巧みに使われていました。黒はブラック企業、ブラックフライデーの象徴。ブラックフライデーの偽CMの映像も黒と赤が印象的でした。
主人公エレナが着る黒と赤の服装は、その時の心情や状況を表していると感じました。
松本一家の元に届いた荷物が危うく爆発するところを、配達員の佐野亘・佐野昭親子の機転で救われるシークエンスが、サスペンスとして一番ハラハラしました。
巨大倉庫に吸い込まれていく派遣社員のオープニングは良かったです。
エレナがネットでX線探知機10機をポチッた軽やかさは、人物をよく表していて良かったです。
残念だったり、惜しかったところもあったの?
ごめんなさい。凄くたくさんあったねー
残念なポイント
●シナリオの問題
脚本の映画ですが、私にはその脚本がいまいち合いませんでした。非常に粗が目立ち、不自然な点が多く、かなりいい加減なシナリオだと思いました。
テーマも平坦、物語も平坦、アクションや見せ場も平坦、大きな盛り上がりがなく全体的にも平坦なストーリー展開でした。
主演2人がコントロールルームでダラダラ喋っている時間が長く、テンポが悪くて少しも物語がドライブしません。まるで会話劇のようです。その会話がウイットに富んだものであれば楽しめますが、ユーモアが効いておらず退屈でした。
犯人は偽CMの発注をしていましたが、行動が回りくどいと感じました。本作の犯人は愉快犯ではありません。しかも、偽CMであることは世間で話題になっておらず、デリファス側も全く気付いていません。つまり犯行予告として機能していないのです。これが犯人にとって何になるのでしょう?
このシークエンスは爆弾の個数を観客に知らせるための脚本上のフリでしかありません。本作はこのような都合の為の展開が多くあります。
とてもテレビドラマ的だと感じました。テレビドラマだと、次回は1週間先になるので、違和感は少なくて済みますが、映画は2時間でまとめなくてはならないので、こういう問題が露呈しやすいのです。
ほとんどのキャラは深掘りされません。人物像として、非常に薄っぺらいです。一番情報があるのは佐野親子でしょうか。
主人公2人に関しても同じです。孔のキャラクターも深掘りされません。情報として出てくるのは、「ブラック企業でホワイトハッカーをしていて、部活はサッカー部ではなかった、欲しいものは特にない性格だ(のに巨大倉庫のマネージャーにまでなっている)」というくらいです。それがなぜかは全く描かれません。
でもこれはまだましな方で、エレナについてはもっと謎です。過去シーンは少し出て来ますが、なぜアメリカにいたのかさえ明かされません(アメリカ人なのか?日本人なのか?名前からすると日系なのか?)。エレナが着るやや華美な色合いの服装や指輪は、外国人であることの強調だったのでしょうか。
山崎に関しても過労で自殺未遂に追い込まれたというのは示されるのですが、それ以上の情報がないので、筧がそこまでして復讐したい程の人物かどうか観客には伝わらず、説得力がありません。
歪な人物像が2人います。
エレナは信用させるような振る舞いをしますが、よく見ていると不審な点が多く、信用(がおけない)できない主人公となっています。
エレナには異物感があります。彼女が語ることが本当なのか信用できません。その理由は後ほど述べます。
もう一人は筧まりか。彼女は「同情を誘う犯罪者」として描かれていますが、やっていることは凶悪犯そのものです。哀れな犯罪者として同情できません。
今回の爆弾事件で、「重傷者5人、軽傷者6人が出た」と途中のニュースで報道していました。“死者”は筧まりかだけで、他は大小あれど怪我人です。つまり爆弾自体の威力は小さなものだという可能性があります。
そうだとしても子供が開ければ死ぬかもしれないし、大人でも一生残る傷や後遺症ができるかも知れません。一般市民を巻き添えにする復讐は、筧にとって完全に的が外れています。筧の目的は「山崎佑の自殺未遂の原因を明らかにし、それを招いたシステムを変える(画的にはベルトコンベアを止める)」ことにあります。その目的を果たすために、一般市民の犠牲は必要ないはずです。
シナリオとしては、利用者も加害者だと言いたいのかも知れません。しかし爆弾で個人を傷つけることは間違っています。他に方法はいくらでもあるはずです。
挙げ句、本作では結局物流システムは何ひとつ変わらず、その犠牲の上に成り立つ成果は「20円の配送賃料アップ」だった、という落としどころとなります。全く釣り合いが取れていません。
本作の犯人は、さながら悲劇のヒロインで同情の余地がある犯罪者という位置付けになっていますが、やっていることは非情な無差別殺人者そのものです。犯人の人物像と犯罪内容が合っておらず、不自然でとても違和感があります。犯人の思いに感情移入ができません。そんな無茶苦茶なストーリーには感動できません。
2024年問題は解決こそしていませんが数年前から散々指摘されてきたことであり、社会問題として取り上げるタイミングとしては既に旬を過ぎています。
問題は既に次の段階に移っています。しかも「誰かが死傷する事件が起きてから業界が変わる」というシナリオは、それ自体が大きな問題だと感じました。
●見せ方の問題
外連味が無く、画的に安っぽく、面白味がありません。全体に展開が平坦でぬるかったです。
非常にテレビ的で、ドラマ特番レベルに感じました。全体に物足りなく、配信で観れば十分という感じです。
アクションらしいシーンは終盤の松本家のシークエンスだけで、他にこれといって映画として印象に残るシーンがありません。
予算の多くを出演料に持っていかれた為に、映画の規模感を小さくせざるを得なかったと想像します。キャストの顔面以外に絵力がないのは否めません。
エンタメ映画としては、規模感が小さく狭い場所で展開する話に感じます。
爆発アクションがメインなのに、個々の爆弾で爆発のスケールが違い過ぎます。
重傷を負わせる爆弾もあれば、直ぐ横で爆発しても誰も怪我を負わない爆弾もあります。
特に羊急便のバックヤードでの爆発は画的にもしょぼいですし、ラストの松本家に届く爆弾もラストアクションなのに洗濯機で処理してしまうのは画的に小規模過ぎます。
松本家の事態が解決すると、日が差し込み、いい感じの音楽が流れるというステレオタイプな表現になります。
そこから反転するラストシーンは逆に分かりにくいと感じました。
満島ひかりは好きな俳優ですが、本作には彼女特有なクセが合っていないと感じました。『川っぺりムコリッタ』の彼女はとても良かったのですが、本作のエレナには好感が持てませんでした。
シェアードユニバースが本作の一番のウリですが、「アンナチュラル」チームも「MIU404」チームも出番は少なく(ほんの少し物語に影響を与えますが)、メインストーリーには絡んで来ることも、エレナや孔と出会うこともありません。シェアードユニバースというよりカメオ出演レベルです。
これくらいの塩梅が良いともとれますが、この程度ならオリジナルキャラクターで十分です。特に「MIU404」チームはいなくても良かったレベルでした。
このストーリーに出すのであれば、一瞬でも主人公と同時に画面に映るとか会話をするとか、何かの絡みがないと意味がありません。製作側でもはっきり「アベンジャーズをしたかった」と言っているのだから、ちゃんと「アッセンブル」させてほしかったです。
終盤の松本家でのシークエンスは警察がやる仕事です。なぜここで「MIU404」チームを使わないのでしょうか。初動捜査中心のヘルプ部署(臨時部隊)とはいえ、そんなのはシナリオでどうにでもなると思います。結局「洗濯機」の伏線回収の為だけに、佐野親子が助けに行く展開となっています。
倉庫の主人公たち、統括本部長、本社、配送会社、配達員、松本家、「アンナチュラル」チーム、「MIU404」チーム。みんなそれぞれシークエンスがバラバラで、ブツ切れに描かれています。ストーリーが切れ切れシーンの寄せ集めに感じます。それが収束してきません。後半になってようやくエレナだけが、羊急便の関東局や五十嵐、佐野親子に別々に会いに行くのですが、物語としての一体感には欠けました。
倉庫に来る2人の刑事(毛利と刈谷)はそれぞれ「アンナチュラル」と「MIU404」に出ていたキャラですが、登場シーンは多いものの最終的に見せ場がなく残念でした。
「止まらないシステムを止める」のがテーマのひとつだと思います。終盤でとうとうベルトコンベアが止まるシーンが出てきますが、本作の主題に関わる重要なシーンであるにもかなわらず、少しもカタルシスがありません。
犯人が物流システムの裏技を利用していることを突き止めるシークエンスがありますが、あの場面でもカタルシスは感じませんでした。実にもったいないです。
巨大倉庫の使い方もアイデア不足でつまらないです。もっと面白い見せ方や使い方が出来たはずです。
ベルトコンベアや広い倉庫を使ったアクションや工夫が見られなかったのは残念です。
筧が犯行を見届けてから物語の最後に爆死するのが最も自然な流れで、観客の心を揺さぶると思います。ですが、最初に爆死してしまいます。これは「MIU404」チームに初動捜査をさせるための脚本上の都合でしかないと感じました。
タイトルはテーマに沿ってはいますが、印象に残りません。もう少しPOPで良いタイトルにした方が良かったと思います。
アメリカ本社とのやりとりも稚拙でステレオタイプに感じました。
ラストマイルを担う人々は、善人として描かれていますが、時々不正事件として報道されるように実際にはどうしようもない人もいます。そういう人も登場させても良かったんじゃないかと思います。
エレナが山崎を「やまさき」と正しく発音するという行は、使い古された表現でフレッシュさがありませんでした。で、それって活かされましたっけ?
「MIU404」を観ていない人には、綾野剛の伊吹キャラはキツイと思いました。
ロッカーのメモには、落下係数や速度を書いたほうが良かったのではと思います。
●テーマについて
本作は過重労働や労働者の尊厳をテーマにしていますが、このような題材はとても古典的で古くから多くの映画が作られています。
有名なものでも、ルネ・クレール監督のフランス映画『自由を我らに』(1931年)やチャップリンのアメリカ映画『モダンタイムス』(1936年)などがありますし、SF映画黎明期の傑作であるフリッツ・ラング監督のドイツ映画『メトロポリス』(1927年)もこれに含まれるかも知れません。
またラストワンマイル問題に関しては、ケン・ローチ監督のイギリス映画『家族を想うとき』(2019年)を思い出しました。この映画の原題は「Sorry We Missed You」(ご不在につき失礼します)という宅配事業者の不在届を意味しており、イギリスの配達ドライバーの過酷な状況とその家族を描くドラマ映画となっていました。
巨大倉庫の労働環境のストーリーとしては『ノマドランド』(2020年)を連想しました。アメリカ中を彷徨いながら、アマゾンなどで過酷な季節労働をする高齢者の姿が描かれていました。ジャンルが違うとはいえ、本作は『ノマドランド』の現実感や衝撃には微塵も敵わないと感じました。
結構手厳しい感想だね
まだまだヘンだと感じたところがあるよ
不自然・違和感を感じたところ
連続爆弾事件のような凶悪な事態が発生して、配送を止めない選択肢は今時の企業にはありません。顧客や従業員に危険が及ぶ可能性があるからです。常識で考えれば当然のことです。顧客と従業員の安全を守る姿勢を前面に出さなければ、ネットで叩かれて企業としての評価が地に落ちるだけです。ブラックなのはそれが隠れた事実だからであって、爆弾事件のような世間に広く公表された事態に対しては、企業としていかにスピードをもって対処したかが重要な評価基準となります。劇中では株価を意識したセリフがありますが、こんな対処の仕方では株価以前に、顧客も取引先も離れて営業自体が立ち行かなくなります。
倉庫の荷物に爆弾があるかも知れないのに、従業員は誰も文句も言わないし、ストもしません。また会社も従業員に対して注意を呼びかけません。違和感満載です。異常です。筆者ならそんな職場には怖くて出社しません。それこそブラックの極みです。それ以前に本作では倉庫のストーリーなのに倉庫の従業員はほぼ描写されません。いないも同然な扱いです。
これだけの事態が起こっているのにデイリーファスト社の本社から誰も現場に派遣されないのは不自然です。事態の収拾や対処の為に、本社から人員が派遣されるのが当然です。エレナが本社のサラと繋がっていたとしてもそれを知っているのは彼ら2人だけのはず。部下の失態は上司の失態です。社会問題となり、警察が入っているのに現場に丸投げはあり得ません。
倉庫だけでなく荷物の製造メーカーや他の物流会社などにも捜査は行くはずです。普通に考えても、対象商品の出荷は差し止めになるはずです。
消費者(=観客)はほとんど描かれません。爆弾被害者と松本家だけです(爆弾の被害者は実際には画面に登場しない)。観客に居心地の悪さを与えて、当事者意識を持ってもらうためにはもっと消費者を描く必要があったのではないでしょうか。
爆弾の威力は注意喚起と共に報道されるはずです。威力が小さければ安心材料となるので尚更です。しかし本作では爆発力に関しては何も言及されません。
5年前から放置されていた山崎のマンションの部屋がそのまま残されているのも不自然ですし、伊吹がそこから女性の匂いを感じ取る(イメージする)のも無理があります。あのマンションは誰が家賃を払っているのでしょうか。それとも分譲マンション?
コントロールルームでの爆弾処理シークエンス。エレナは孔との対話の最中に、開けようとした荷物に爆弾が仕掛けられていることに気付き、いきなり爆弾処理が始まります。何で?ストーリーの流れからも完全に浮いています。
このシナリオであのシークエンスは必要なのでしょうか? しかも爆弾を抑えながら打ち明け話をするというのは不自然極まりありません。警察もいい感じのタイミングで入ってきて爆弾を処理します。
爆発物の発見や処理に対して防護服を着た爆発物処理班は出てきません。普通の軽装の警官や刑事しかいません。
エレナが開けようとした箱が爆弾だと言ったときに、なぜ孔は逃げないのでしょう。なぜエレナもそして警官も彼を逃がそうとしないのでしょうか。非常に違和感があります。
このシーンで爆発物処理班はエレナと孔に防護ヘルメットを被せますが、警官はヘルメットを被ってなかったのでは?例え処理できる自信があったとしても暴発することだってありますし、間に合わないことだってあり得ます。
そんな感じだから、いつ爆発するかも知れない爆弾をめぐるスリリングさが感じられません。主人公にそれをさせただけというお粗末な演出になっています。
山崎が使っていたロッカーに謎めいたメモ書きがあり、それを消さないようにとLCの社員間で申し送りがされていましたが、それはなぜ?
メモの内容もベルトコンベアのスピードと耐荷重が書かれているだけで、それがどうしたというくらいの内容です。それをなぜ代々の社員が引き継いでいるのか理解できません。引き継ぐ時には「君は自殺しないように」とでも言うのでしょうか。
最後にエレナはアンとの電話で「爆弾はまだ残っている」と伝えます。事件が解決を迎えたため、これ以上警察が爆発物の検査をすることは無理です。もしデリファス社自身が荷物の検査をするためにベルトコンベアを止めたとしても、それは追加で処理しなければならない業務の発生を意味し、従業員のへ過重労働へ繋がることは明白です。エレナの目的と矛盾が生じます。
筧まりかはなぜ身を偽ってから自殺したのでしょう。
なぜ山崎佑は死んでおらず、植物状態という設定なのでしょう。
筧の自殺でガスボンベをあんなにたくさん使っていたら、警察の現場検証で、すぐ鑑識が見つけるはずです。なぜ見つからん?
「ホワイトハッカーがいる職場」と「日本企業の悪いところを集めた会社」とが同じというイメージが持てませんでした。
まだ言い足りないことがあるの?
疑問点も多かったんだよ
疑問に感じたポイント
エレナは山崎のことも山崎の恋人(筧)のことも事前に知っているのだから、犯人が山崎の恋人ではないかと早々に気付いてもよさそうですが、なぜかエレナは筧まりかのことを犯人の候補に入れません。
本作のストーリーで最終的にシステムから外れる(会社から去る)のは、ヒロインであるエレナだけです。
アメリカ本社からの直接赴任なら出社前から話題で持ち切りになりそうなものですが、上司である五十嵐でさえエレナの経歴もどのような人物なのかも知りません。(密命を帯びていたとしても変です)
エレナはなぜアメリカにいたのでしょうか。筧まりかはなぜアメリカでエレナに会えたのでしょう。
この時点でのエレナは山崎とは関係ありません。山崎の件を告発するために渡米してきたその恋人と“たまたま”接触し、協力を求められたのいうのはとても不自然です。
筧まりかは訴えるとかマスコミに告発するとかではなく、なぜ爆弾で罪もない人を巻き込むのでしょうか。やりたいことが何か理解できません。
一般市民が犠牲になることをやりたかったのでしょうか。復讐なら対象の相手にすべきです。倉庫に爆弾を仕掛けてベルトコンベアを止めろと要求するとか、本当に倉庫を爆破するとかならまだ分かりますが、自分がまず自殺しておいて、他人を巻き込んだ凶悪事件を起こすことが良い結果を招くとでも思っているのでしょうか。しかも恋人である山崎は植物状態とはいえまだ“生きて”います。
会社にある山崎の記録を消しても、上司であった五十嵐や同僚は覚えています。五十嵐の記憶を消さないと証拠隠滅にはなりません。それならわざわざエレナに頼むより、五十嵐にデータを消去させた方がスムーズです。なぜエレナでなければならないのか。
エレナは五十嵐に「羊急便は配送料の上乗せを要求しています」と、集配センターのドライバー達がストライキを起こすスマホの動画を見せて、要求書を渡します。さらにエレナは「大手3社の運送会社も羊急便に協力する」との書類を渡します。
エレナがいかに優秀だとしても、交渉の準備があまりにも段取り良過ぎます。
疑問点が多い脚本になったのはなぜなのかな
恐らく脚本推敲の段階で主人公のキャラクターを変更したからだと思うよ
脚本が歪になった原因はこれ!(考察)
エレナは信頼できない主人公として描かれています。
筧がこの壮大な計画を一人で準備できたのかは甚だ疑問です。
エレナ共犯説などの考察をネットに挙げている方がおられます。大変面白い考察です。
ですが本作(作品)に関しては意味がありません。なぜなら、もし本当にそういう意図が製作者側にあったのなら、少しでもストーリーに組み入れたはずだからです。そうしないのは意図がないからです。というか意図から外したのだと私は思います。
なぜなら本作の脚本には穴や疑問が沢山ありますが、エレナが共犯もしくは真犯人であればほとんどの穴が埋まるからです。エレナが共犯者であることを臭わせるシーンは、簡単に挿入できますが、本作はそれを敢えてしていません。
筆者が想像するに、脚本の初稿の段階では「エレナが共犯者」として書かれていたのではないでしょうか。
最初はエレナが共犯者もしくはエレナが犯人として脚本に描かれていたのですが、脚本を推敲していくうちに今のキャラになり、痕跡だけが残ったということだと思います。
若しくは、社会問題を取り上げたミステリーという本筋から逸れ、本作のテーマに対してどんでん返し的な展開は相応しくないと判断したのではないかと思います。
そこでエレナが真犯人であるというシナリオを止めて、現在の内容に書き換えたのだと推察します。
その結果、シナリオのあちらこちらに当初のシナリオの痕跡が残り、先に挙げたように歪なシナリオになったのではないかと思います。それゆえ、様々な不自然さや疑問が残ってしまう結果となったのです。
それなら孔が主人公で、エレナが真犯人で良かったんじゃないかと思いますが、主人公を黒幕にすると、ブラック過ぎてテーマに合わないと判断されたのではないかと想像します。
チグハグになった脚本が、エレナ共犯でスッキリするのであれば、そういう物語にした方が良かったのではないかと思います。その方が面白かったのではないでしょうか。そうすれば筆者の感想も変わっていたかも知れません。
エレナが共犯者であれば、どの箱が爆弾か知っていたことになります。つまり自分が開けようとしているのが、爆弾だと分かった上でわざと開けようとしたということになります。そうするとあのシークエンスのちぐはぐ感も理解できます。
筧がやりたかったのは復讐、エレナがやりたかったのが労働環境の改革と契約交渉で、利害は一致します。しかしベルトコンベアは止まらず、倉庫の労働環境は変わっていません(言及がない)。
結局この物語は何を描きたかったのでしょう?
偽CMでデイリーファストのスペルが違っているというのがあったね
これは恐らく「ファウスト伝説」を意識したネタだと思うよ
「ファウスト伝説」について
エレナがネットでデイリーファストのCMを検索していると、「DAILY FAST」ではなく「DAILY FAUST」になっているのが発覚するというシークエンスがあります。
「ファウスト」はゲーテの長編の戯曲として有名ですよね。筆者も学生の時に夢中になって読みました。
主人公の名前は「幸福な」「祝福された」を意味するラテン語のfaustusに由来します。( 「力ずくで」「武力によって」という意味のドイツ語とは異なります)
本作も敢えて「DAILY FAUST」としているところから見て、「ファウスト」を意識していることは明らかでしょう。
ファウスト伝説によれば、ファウストは悪魔(メフィストフェレス)に対して、魂と交換にこの世のあらゆる喜びと知恵と知識をほしいままにできる魔法の力を求めます。しかし最後には悪魔に魂を奪われ体を四散されます。(ゲーテの「ファウスト」では最後は救済されます)
この伝説を本作になぞらえば、筧がファウストで、エレナがメフィストということになります。
「アンナチュラル」チームのターンで、「筧の身体は四散していた」という説明があったので、間違いはないでしょう。
やはりエレナは共犯者、すなわち共同正犯、或いは教唆犯として設定されていたのだと思います。
巨大倉庫に社員は9人しかいなくて、ロッカーが余っているという描写があったね
今後の労働環境は劇的に変化する可能性があるね。今が良かったねという日が来るかもしれないよ
映画『ラストマイル』を観てその他感じたこと
10年、15年後にはアマゾンのピッキング作業などの仕事は無くなっているかも知れませんし、配送も自動化が進んで配送業者は今よりずっと減っているかも知れません。
本作でも巨大倉庫に正社員(ホワイトカラー)は9人しか必要ないと描かれています。無駄に置かれたロッカーは恐らく解雇された人数(担当の職場がなくなった)なのです。
現在は企業の巨大化のスピードに効率化が追いついていなかったために人手で補っていましたが、巨大化のスピードの鈍化が進むと効率化が追いつき、労働市場の縮小が始まります。
間もなく上越新幹線の一部で自動運転が始まります。そのうち新幹線の運転手という職業もなくなるでしょう。
車の自動運転が進めばトラック、タクシー、バスなども人が介在する所が減っていきます。
身近なところでは、レジのチェッカーが減っていますし、銀行の窓口も減っています。
今後はAIの台頭で、ホワイトカラーの仕事もどんどん減っていきます。
「あの頃は仕事があって良かったな」という時代になるかもしれません。
そうなるとベーシックインカムを、まじめに考えないといけない社会になるかも知れませんね。
今描くのならそういうことまで描いてほしいなぁと思います。セリフ1つ挟むだけで、ずいぶん違った印象になるはずです。本作は少し視野が狭いと感じました。
『ラストマイル』のおすすめポイントのまとめです!
映画『ラストマイル』の推しポイントまとめ
社会問題を取り込んだ脚本に、人気ドラマのシェアードユニバースで観客を楽しませながら、同時に営業のリスクヘッジをしている作品です。
いかにもヒットさせるために作っている作品という感じです(商業映画なんだから当たり前ですが)。その効果がしっかり興行成績に表れている点は素晴らしいと思います。
一定の面白さは担保されている作品ですし、ドラマや脚本家のファンなら間違いなく楽しめます。
この座組の作品は見逃せない、豪華な俳優陣の世界観を楽しみたいという方には、特におすすめです。
一方筆者はというと、今年一番退屈な映画でした。フレッシュさが微塵も感じられませんでしたし、豪華な俳優陣も不発でした。
全ての登場人物が深掘りされず、まるでベルトコンベアみたいな作品だと感じました。
何と言っても物語に不自然なことが多過ぎます。脚本がおかしいのです。主人公を共犯者として設定しておきながら、そう描かなかったことで歪なシナリオになっています。
最後に問題提起で終わるのはいいのですが、ミステリーやサスペンスの部分に関してはスッキリ終わってもらいたいです。本作は何だかモヤモヤしたまま終わります。
ともあれ大ヒットしたシェアードユニバースは業界を変えるでしょうか。二匹目のドジョウを求めて、業界がウヨウヨ動き出しそうですね。
でもMUCのようにはならないでほしいです。結局はそのユニバースが足を引っ張っているのが現状ですから。
本作に興味があれば、是非“配信”が始まってからお確かめください。
いかがだったでしょうか。
ぜひもう一度この映画を観ましょう!
そこにはきっと気付かなかった感覚や楽しさ、新しい発見があると思います。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。