当ブログでは皆様の映画選びの一助になる情報と感想をお届けしております。
この記事を読めば、あなたもきっとこの映画を何度も観たくなります。
是非最後までお付き合いください。
では、行きましょう!
●『ソウルの春』のおもしろさ
●『ソウルの春』の特徴
●『ソウルの春』に関連する作品の紹介
●『ソウルの春』の推しポイント!
<おススメ度>
<ポジティブ感想>
● 歴史的な事実を基に韓国の闇を描いた一級のポリティカルサスペンスです。抜群に面白く、必見の作品です!
● 圧倒的なエンタメ感と高いクオリティで史実を描き出しています。
● リアリティで迫力あるキャストの演技も最高です。
● 緊迫感ある展開は、韓国の歴史に興味があるかどうかに関わらず楽しめます。
● 最後には深い闇に突き落とされる苦い鑑賞感が残ります。そこにこそ本作の価値があります。
● 平和と正義は簡単に得られず、自由も民主主義も庶民が知らない間に簡単に無くなってしまうということが語られています。是非若い人にも観てもらいたい作品です。
<ネガティブ感想>
● 本作には勧善懲悪的なカタルシスはありません。勧善懲悪が好きな方には合わないかも知れません。
● ほぼ女性は出てきません。画面に映るのは脂ぎったおじさんばかりです。きれいな女性を見たいという方は、他の映画を観ましょう。
歴史ものです。今回も勉強になりました。
どんな映画なの?
韓国で実際に起きた事件を基にした政治サスペンスものだよ
映画『ソウルの春』の概要
1979年12月12日に大韓民国(韓国)の軍内部で起こった「粛軍クーデター」または「12.12軍事反乱」と呼ばれる事件を題材にした韓国映画です。
一部フィクションを交え、独裁者の座を狙う男と国を守ろうとした男の攻防を描く、社会派エンターテインメントです。
2023年韓国で年間観客動員数第1位を記録し、『パラサイト 半地下の家族』を上回る1,300万人以上の観客動員で歴代級の大ヒットとなりました。
ファン・ジョンミンとチョン・ウソンがW主演を務めています。監督は「アシュラ」でも2人と組んだキム・ソンス。
英題は「12.12 : THE DAY」。上映時間は142分。やや長めですが、筆者は長さを感じませんでした。
韓国のゴールデングローブ賞と呼ばれる百想芸術大賞 映画部門では、大賞と作品賞を受賞。さらにファン・ジョンミンが男性最優秀演技賞を受賞しています。
どんなお話なの?
韓国大統領の暗殺によって出来た政治的空白に、クーデターを起こす男とそれを阻止しようする男の攻防戦が描かれるんだ
映画『ソウルの春』のざっくりあらすじ
1979年10月26日、独裁者と言われた韓国大統領が側近によって暗殺された。国中に衝撃が走り、同時に民主化を期待する国民の声が高まっていく。しかし、事件の合同捜査本部長となったチョン・ドゥグァンは新たな独裁者の座を狙い、陸軍の秘密結社「ハナフェ」の将校らを率いて同年12月12日にクーデターを決行する。一方、首都警備司令官のイ・テシンは軍人としての信念に基き、ドゥグァンの暴走を阻止しようとするのだが。
というような筋書きです。
本作の一般的な評価はどうなの?
日本と韓国では高評価だね
映画『ソウルの春』巷の評価
ロッテントマトではポップコーンメーター(オーディエンス) 63%。
Filmarks 4.1p、映画COM 4.0p。
アメリカではパッとしませんが、本国韓国や日本での評価はかなり高いです。
以下、決定的なネタバレはしないように気を付けていますが、結末について全く知りたくないという方はご注意ください。史実が基になっているので、元々ネタバレ云々が重要な作品ではありません。
観た感想は?
手に汗握る展開で、抜群に面白かったよ
映画『ソウルの春』を鑑賞した感想
圧倒的なエンタメ感で手に汗握る攻防戦が繰り広げられます。滅法面白かったです。
密書ものや橋の攻防戦の面白さもあり、一瞬たりとも目を離せないほど迫力満点です。
非常にテンポが良く、緊迫感があり、息をつかせぬ展開が続きます。
歴史的事実なので最後にどうなるかは知っているのですが、それでも面白いです。もし史実を知らずに観たとしたら、結末も楽しめると思います。
ただ歴史的な流れを知っている方が展開は分かりやすいです。
この映画の特徴を教えて?
正義側からじゃなくて悪側から描いているんだ。史実でなければこの結末はクレームがくるかもしれないね
映画『ソウルの春』の特徴
韓国の黒歴史がベースになっていますが、正義側ではなく悪側から描いているのが秀逸です。
悪側であるチョン・ドゥグァンが主人公でストーリーを引っ張っていきます。ヴィランの存在感が大きく、且つ魅力的です。
上映時間の約3/4くらいはクーデター当日の数時間を描いています。非常にテンポが速く、形勢がシーソーのように傾いていくのがスリリングです。
軍内部の話なので登場人物は多く、展開も複雑です。
しかし図などを使って分かりやすくする工夫がなされています。かなり整理されていて、最後まで何とか混乱せずに観られます。
事実でなければ描けないストーリー展開です。
結末を知っていても打ちのめされ、現実の重さに絶望します。
キャストはどうだったの?
どの演者も素晴らしかったよ。特にファン・ジョンミンは最高だったね
素晴らしいキャストの演技
主演のファン・ジョンミン、チョン・ウソンをはじめ、キャストは最高の演技を披露しています。
ファン・ジョンミンは、薄毛だったドゥファンに似せるために、メイクやヘアセットに3~4時間費やしたといいます。さらにアクセントや仕草、歩き方まで巧みに真似し、ドゥファンになりきることに成功しています。
今年の「ベストヴィラン」なんて賞があれば、彼が演じるチョン・ドゥグァンが選ばれるでしょう。クーデター終了後のトイレのシーンは、とても印象に残りました。
2人の人物の対立を通して物語が展開するんだよね
そう悪と正義で対照的に描かれるんだけど、悪の吸引力が高いんだよ
悪と正義の描き方について
本作は対照的な軍人2人の対立を中心に物語が展開します。悪と正義で対照的に描かれます。
本作のヴィランであるチョン・ドゥグァンは人誑しの素質があり、狡猾に周りを巻き込んでいきます。手練手管を使い、目的に向かって信念を持って大胆に突き進んでいきます。その姿は魅力的に映ります。
対するイ・テシンは高潔な人物として描かれています。真面目で、どちらかというと融通が利かない方です。
イ・テシンは陸軍士官学校出身ではないので、ハナフェとは元々対立関係にあります。
彼は正義側ですが民主主義を守りたいというイデオロギーがある訳ではありません。軍の規律を守り逆賊を許さない、ソウルを戦場にしないのが彼の信条です。
チョン・ドゥグァンのクーデターは、明らかな軍事反乱です。しかし国防側は団結出来ません。準備も足りません。日和見派が沢山いて、観ているとイライラします。国防長官が特に酷いです。
本当に意志が強いのは、主役の2人だけです。
クーデター側はチョン・ドゥグァンが力技で団結させます。そこにはドゥグァンの吸引力の強さがあるのだろうと思います。
ハナフェ(ハナ会・一心会)の組織力やツテの多さで、戦況に圧倒的な差が出ます。ハナフェは軍内部の私的な秘密組織で、下位の者は誰が会員かも知らないという徹底ぶりでした。
結局、大義や正義だけでは勝てないのです。
「本作は史実です」ではなく「史実を基にしたフィクション」ということになっているんだね
軍内部の事件なので、どこまでが本当なのか分からない部分もあるみたいだね
史実を基にしたフィクションです
本作は事実に基づいたフィクションということになっています。軍内部の事件なので未だにどこまでが事実か分からないところがあることや映画的な演出があるためです。
まだ関係者が生きているという理由もあるかも知れません。
フィクションのストーリーを可能にするために、登場人物の名前も微妙に変更されています。
歴史を知っていれば、誰が誰かは大体判りますが、エンドロールに出てくるある写真画像で、それははっきり示されます。そしてこの映画が事実だということが明確になります。
面白い映画だというのは分かったけど、本作で描かれるテーマは?
自由や民主主義は簡単に得られないし、気付かない内に簡単に無くなってしまうかも知れないということだと思うよ
映画『ソウルの春』が描くテーマ
韓国の人にとってはまだ最近の話です。記憶に焼き付いている苦い事実です。
経済的には素晴らしい発展を遂げた韓国ですが、政治的にはまだ完全に安定はしていません。
本作に国民はほとんど出てきません。国民が知らない間に起きた事件だからです。民主主義は国民が知らない間に遠ざかり、無くなるのです。
「失敗すれば反乱だが、成功すれば革命になる」という台詞が出てきます。勝てば官軍、負ければ賊軍。見方によっては、ヒーローとは恐ろしいものです。
『ソウルの春』っていう題名はどうなの?
結構苦いタイトルで、皮肉が効いてると思うよ
『ソウルの春』というタイトル
原題は『서울의 봄』(ソウルの春)です。
そう聞くと、民主化運動の「ソウルの春」のことを描いたような作品に感じますが、本作はそうではありませんでした。本来なら「ソウルの春の●●」というタイトルにすべきところを、本作は敢えてそうしていません。本作を観終わった後には、苦いタイトルだと感じます。内なる皮肉が効いています。
クーデターはこの一夜で完成したの?
実際にはこの後8ヵ月もの時間を掛けてクーデターは完成するんだよ
ソウルの春の後日談
チョン・ドゥグァンのモデルとなったチョン・ドゥファン(全斗煥)が起こした「粛軍クーデター」は、本作で描かれている一夜ではなく、その後8ヵ月掛けてクーデターを完成させます(史上最長のクーデターとも言われている)。
その決定的な出来事が「光州事件」です。光州事件は市民による軍事政権に対する民主化要求の蜂起に対して、韓国軍が一斉射撃などで一般市民を大量虐殺した事件です。
第11代、第12代の大統領になったチョン・ドゥファンは、経済復興を成し遂げますが、その圧政から未だに国民の評価は低く、歴代大統領の人気投票では毎回断トツで最下位だそうです。
ドゥグァンの次に就任したノ・テウ(盧泰愚)は、ソウル五輪の時の大統領でした。彼も粛軍クーデターに参加した人物で本作にも登場します。
クーデター後は解任された張泰玩陸軍少将(イ・テシンのモデル)の後任として首都警備司令官に就任します。
その後、16年ぶりとなる直接選挙で選ばれて第13代大統領になりますが、本作でも描かれている通り彼はドゥファンの朋友であり後継者です。韓国の真の民主化は、国民による直接選挙でさえ成し得なかったのです。
本作の関連作品を教えて?
本作の前後に起きた事件を描いた作品を紹介するね
本作に関連する作品を紹介
パク・チョンヒ(朴正煕)大統領暗殺事件については、イ・ビョンホン主演の『KCIA 南山の部長たち』(2020年)で映画化されています。本作で陸軍参謀総長兼戒厳司令官役だったイ・ソンミンがパク大統領を演じています。かなり暗く、重い雰囲気の作品です。
光州事件についてはソン・ガンホ主演の『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年)で描かれています。軽いコメディ感覚で始まりますが、後半は全く違う雰囲気になっていきます。事実を基にした作品ではありますが、こちらはかなり脚色が大きいようです。
時系列では、『KCIA 南山の部長たち』→『ソウルの春』→『タクシー運転手 約束は海を越えて』の順になります。全く違うテイストなので、もし続けて観ても飽きずに楽しめると思います。
本作が合わない人もいるのかな
勧善懲悪な映画が好きな人には、もしかしたら合わないかもね
この映画が合わない人
本作に決定的な残念ポイントはありません。非常に良くできた作品です。
但し、本作の特徴として、いわゆる勧善懲悪的なカタルシスはありません。
多くの観客は最終的に苦い思いを味わいます。歴史的な事実なので仕方ありません。どうしても勧善懲悪な結末でないとつまらない、という方には合わないかも知れません。
映画『ソウルの春』のおすすめポイントまとめです
映画『ソウルの春』のおすすめポイントまとめ
歴史的な事実を基に韓国の闇を描いた一級のポリティカルサスペンスでした。抜群に面白かったです。必見の作品です!
圧倒的なエンタメ感と高いクオリティで史実を描き出します。韓国映画の底力を感じます。日本映画ではなかなか出来ない芸当です。
リアリティで迫力あるキャストの演技も最高です。緊迫感ある展開は、韓国の歴史に興味があるかどうかに関わらず楽しめます。
そして最後には、不条理サスペンスといってもいいような、深い闇に突き落とされる感覚を味わいます。苦い鑑賞感です。そこにこそ本作の価値があります。
政治は国民が知らないところで動き、平和と正義は簡単に得られず、民主主義は簡単に手放せるのだということをよく物語っています。是非若い人にも観てもらいたい作品です。
歴史もの、今回も勉強になりました。
<おススメ度>
余談ですが
韓国映画を観ていると、時々日本語の発音に似ている韓国語が出てきて、不思議に思います。
例えば「閣下」はどう聞いても「カッカ」と発音してるように聞こえます。他にもこういう単語がいくつもあって面白いです。
韓国は日本と同じく、中国から漢字が伝わった国です。今ではハングル文字が主流の韓国ですが、漢字を使っていた頃の名残りで、発音が日本語と似た言葉があるのだそうです。幕末から日本の言葉が韓国に伝わったことや日本統治時代を経たことなども関係しているみたいですね。
いかがだったでしょうか。
ぜひもう一度この映画を観ましょう!
そこにはきっと気付かなかった感覚や楽しさ、新しい発見があると思います。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。